店名の由来を尋ねると「辰年の龍!」と一言放ちニカッと笑う大将の林紀男さんは、御年80歳。寿司を握ってほどなく半世紀、どこかお地蔵様のように有り難くもあり可愛らしくもある、そんな大将に会うためだけに暖簾をくぐっても損はないと思わせてくれるのが『寿し龍』である。金沢駅から東大通りを堀川方面へ向かうと目に留まる堂々とした店構え。平成元年に建て替えられた店舗もすでに30年以上が経ち、磨き込まれたカウンターと新鮮な魚介が並ぶネタケースが鎮座する店内には、昭和の時代から受け継がれる日本の良き寿司屋の風格が漂う。
昼時、店が開いていれば少し遅い時間帯でも気持ちよく客を受け入れてくれる。相手が地元客でもビジネス客でも、海外からの観光客であっても、間合いを見ながら声をかけ、その時季のおすすめを教えてくれる。こだわりは「変えない」こと。豊かな海の幸と、清らかな水、おいしい米、旨い地酒と地元の醤油、これらが揃う金沢で、恵みに感謝しながら連綿と握り続けてきた。魚を塩で締めたり、冷蔵庫で寝かしたりして、素材の良さを引き出すための仕事はするが、手をかけすぎない塩梅もまた絶妙である。
外で料理修業した後、店に入った息子の芳弘さんは、20年以上の経験を重ねたベテランだが「まだまだ学ぶことしかないです」と謙虚な姿勢で父であり師である紀男さんや、つけ場に立つ職人の仕事から目を離さない。そうやって店全体に目を配りながら、市場関係者や同業の仲間、客の声にも耳を傾け、調理場から新風を吹き込んでいる。<br>「客を大切にする」ことを一番に考え、休む間もなく働いてきた大将と女将さんが築き上げた店の信頼は、次代へもしっかりと引き継がれていくに違いない。
当たり前のことを当たり前に。寿司も一品料理も旬の美味しいものを取り揃えてお待ちしております。季節によっては自家製で地元の味やら押し寿司やら、いろいろ用意しとりますさかいに、店のもんに遠慮せんと何でも聞いてみてください。
店主 林紀男