めいてつエムザ裏通りのビルの2階に誕生して10年目。『くすの樹』は、地元客比率が高めの和食店だが、近隣に林立するビジネスホテルの従業員らが安心して宿泊客に勧めることができる店としても知られている。
店主の楠友則さんはホテル日航金沢のオープン当初より和食『弁慶』にて18年のキャリアを積んだ筋金入りの和食職人だ。『弁慶』といえば寿司カウンターで『太平寿し』の鮨が味わえることでも話題を呼んだが、当然のことながら楠さんも太平の鮨を学び、その提供に携わったという。さぞ顧客をつけて独立したのかと思いきや、「和食は裏方仕事が多いので、店を構えた時は、何も無いところからのスタートでした。2年ほどは本当に大変でした」と笑う。富山県出身で地の利があるというわけでもない。しかしながら、彼の料理への飽くなき探求心と時おり垣間見せる遊び心は、客を大いに楽しませ口コミでファンを増やす材料となった。
店の看板メニューは常に更新されているが、近年はカジキの漬けや、熟成させた天然鰤を使ったメニューの評判が高い。造りでは熟成鰤の味わいそのものを、しゃぶしゃぶでは際立つ旨味を、生ハムでは酒との相性を確かめつつ、それぞれの持ち味を余すところなくいただける。朝の9時から市場をまわり2時過ぎまでみっちり仕込み。一人で板場を切り盛りしていると日々の仕事に追われて終わりそうだが、楠さんはまるで子供が新しい遊びを発明するかのように、アイデアを巡らせて新しい料理を発想する。「ホテル時代は毎月、毎シーズンのようにイベントがあり、新しい食材やテーマで次々と料理を考えざるを得ませんでしたから、その経験が生きているのかも知れないですね」とあくまで謙虚だが、彼の料理には小手先のアレンジには留まらない芯がある。コースでその真髄を味わうか、メニュー片手に絞り切れない料理に悩むか、迷うところだがいずれも垂涎の時間が約束されている。
あくまで和食が基本ですが、洋食や中華のエッセンスを効かせた料理もあります。
料理名だけを見ているだけでは伝わりにくいかもしれませんが、何かしら『くすの樹』らしさやこだわりが潜んでいますので、それを探っていただけると嬉しいです。
店主 楠 友則